ビジネスの場で知っておくべきハラスメントは非常に多岐にわたります。特に法令で対策が義務付けられている主要なハラスメントと、社会情勢や多様化する働き方の中で問題視されるようになっているハラスメントを一覧にまとめました。
知っておくことで、ご自身が加害者・被害者にならないための予防策となり、健全な職場環境づくりに繋がります。
法令で防止措置が義務付けられている主要ハラスメント

パワーハラスメント
パワハラ
職場の優越的な関係を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または就業環境を悪化させる行為。

セクシュアルハラスメント
セクハラ
労働者の意に反する性的な言動により、労働条件に不利益を与えたり(対価型)、就業環境を害したりする(環境型)行為。性的指向や性自認に関する言動も含まれる場合がある。

マタニティハラスメント
マタハラ
妊娠・出産、育児休業などの制度利用に関する言動により、女性労働者の就業環境を害する行為。

パタニティハラスメント
パタハラ
育児休業などの制度利用に関する言動により、男性労働者(主に父親)の就業環境を害する行為。

ケアハラスメント
ケアハラ
介護休業などの制度利用に関する言動により、労働者の就業環境を害する行為。
その他の重要なハラスメント
上記の主要なハラスメント以外にも、近年問題視され、予防・対策が求められているハラスメントは多数あります。
人格・人間関係に関するもの

モラルハラスメント
モラハラ
言葉や態度により、精神的な苦痛を与える行為。人格否定や無視、陰口など、優位性に関わらず行われるケースがある。

エイジハラスメント
エイハラ
年齢や世代を理由に、差別したり嫌がらせをしたりする行為。「もう若くない」「最近の若い者は」といった発言など。

ジェンダーハラスメント
ジェンハラ
性別による固定的な役割分担の押し付けや差別的な言動(例:女性だからお茶汲みを強要するなど)。

SOGIハラスメント
ソジハラ
性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関する差別的言動や、本人の同意のない情報暴露(アウティング)をする行為。

パーソナルハラスメント
パーハラ
容姿や性格、家族構成、病歴など、個人の特性やプライベートに過度に立ち入ったり、揶揄したりする行為。

不機嫌ハラスメント
フキハラ
不機嫌な態度や表情、ため息などで、周囲に精神的な苦痛や威圧感を与える行為。
業務・働き方に関するもの

ロジカルハラスメント
ロジハラ
正論や論理的な言葉を振りかざし、相手の感情や状況を考慮せず、論破したり追い詰めたりする行為。

時短ハラスメント
ジタハラ
業務量が変わらないのに、残業を認めず定時での退社を強制するなど、サービス残業を誘発する行為。

リモートハラスメント
リモハラ
リモートワーク(在宅勤務)中に起きるハラスメント。過度な監視や、Webカメラに映るプライベート空間への詮索など。

テクノロジーハラスメント
テクハラ
IT機器や新しいテクノロジーの知識不足を嘲笑したり、指導せずに嫌がらせをしたりする行為。

リストラハラスメント
リスハラ
退職に追い込むために、不当に簡単な仕事や不本意な部署への異動を命じるなど、嫌がらせをする行為。
その他の環境・行為に関するもの

カスタマーハラスメント
カスハラ
顧客や取引先が、理不尽な要求や暴言などで従業員に嫌がらせをする行為。

アルコールハラスメント
アルハラ
飲酒の強要や、酔った上での迷惑行為、飲めない人への配慮のない言動など。

スメルハラスメント
スメハラ
体臭や香水、タバコの臭いなど、においによって周囲に不快感を与える行為。

スモークハラスメント
スモハラ
喫煙者が非喫煙者に受動喫煙を強いる行為や、喫煙に関する言動で嫌がらせをする行為。

ハラスメント・ハラスメント
ハラハラ
ハラスメントの相談や訴えに対し、「それはハラスメントではない」と切り捨てたり、逆にハラスメントとして訴えるなど、企業のハラスメント対策を逆手に取る行為。
ビジネスの現場では、上記に挙げた以外にも、さまざまな言動がハラスメントになり得ます。最も重要なのは、相手の尊厳を傷つけたり、就業環境を不快にさせたりしないという意識を持つことです。
ご自身の職場でどのようなハラスメントが起きやすいか、改めて考えてみることをお勧めします。
ハラスメントに関連する主な法律としては、これらは主に事業主に対してハラスメントの防止措置を義務付けているものです。
- 労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)
- 対象となるハラスメント: パワーハラスメント(パワハラ)
- 内容: 職場におけるパワハラ防止のために、事業主(企業)に雇用管理上必要な措置を講じることを義務付けています。2022年4月からは中小企業にも義務化されました。
- 男女雇用機会均等法
- 対象となるハラスメント: セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- 内容: 事業主に対して、職場におけるセクハラによって労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることがないよう、防止措置を講じることを義務付けています。
- 育児・介護休業法 および 男女雇用機会均等法
- 対象となるハラスメント: 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(マタハラ、パタハラ、ケアハラなど)
- 内容: 事業主に対して、妊娠・出産、育児・介護休業などに関するハラスメント防止のための措置を講じることを義務付けています。
その他の法的側面
上記の法律以外にも、ハラスメント行為の内容によっては、以下のような法律が適用される可能性があります。
- 民法
- ハラスメントによって被害者が損害を受けた場合、加害者個人に対して不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償請求が可能です。
- また、企業に対しても、安全配慮義務違反や使用者責任(民法第715条)に基づいて損害賠償請求ができる場合があります。
- 刑法
- ハラスメント行為が、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪、強制わいせつ罪などの刑法上の犯罪に該当する場合があります。
これらの法律は、ハラスメントの予防や、ハラスメントが発生した場合の企業の対応、そして被害者の救済に関わる重要な基盤となっています。
日本の法律には「モラハラ」という名称や定義を直接定めた単独の法令は存在しません。
しかし、モラハラの実態は、発生する場所や行為の内容によって、既存の複数の法律で規制・対処されています。
1. 職場でのモラハラの場合
職場で優越的な地位を利用した精神的な嫌がらせが行われた場合、それは**パワーハラスメント(パワハラ)**と見なされ、**労働施策総合推進法(パワハラ防止法)**の規制対象となります。
- 労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
- 定義:「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」
- モラハラとの関係: モラハラとされる行為(無視、悪口、侮辱的な言動など)が、上司から部下など優越的な立場から行われた場合、パワハラの「精神的な攻撃」や「人間関係の切り離し」「個の侵害」などの類型に該当し、企業の防止措置義務の対象となります。
- ポイント: 職場における精神的な嫌がらせであれば、多くの場合、この法律に基づき企業に対策が求められます。
2. 家庭内でのモラハラの場合
夫婦間など家庭内のモラハラは、主に以下の法律や法制度で対処されます。
- 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)
- モラハラとの関係: DV防止法における「暴力」には、身体的な暴力だけでなく、生命または身体に危害を加える言動も含まれます。2023年の改正により、精神的DV(モラハラを含む精神的な嫌がらせ)による被害に対しても、裁判所が接近禁止命令などの保護命令を出せるようになりました。
- 民法(離婚・損害賠償)
- モラハラが原因で婚姻関係が破綻した場合、離婚事由の一つである**「その他婚姻を継続し難い重大な事由」**(民法第770条)として離婚が認められる可能性があります。
- モラハラ行為が不法行為(民法第709条)に該当する場合、被害者は加害者に対して**慰謝料(損害賠償)**を請求できます。
3. 行為の内容による法的規制
モラハラ行為の内容が極端な場合や、被害者に重大な精神的苦痛を与えた場合は、発生場所を問わず、以下の法律が適用される可能性があります。
- 民法:不法行為(損害賠償請求)
- 刑法:行為の内容によっては、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪などに問われる可能性があります。
まとめ 「モラハラ」という単一の法律はありませんが、その行為が職場で優位性を利用して行われればパワハラ防止法、家庭内で生命・身体に危害を加えるような精神的攻撃であればDV防止法や民法(不法行為・離婚)など、その実態に応じて既存の法律が適用され、対処されることになります。
パワハラやセクハラに関する裁判の判例は
パワハラやセクハラに関する裁判の判例は非常に多く、被害の態様や深刻度、企業の対応によって結論や認められる賠償額が大きく異なります。
ここでは、特に企業の責任(安全配慮義務違反や使用者責任)や、高額な賠償が認められた事例など、特徴的な裁判例のポイントをいくつかご紹介します。
あくまでも判例です。同様の判例になるということではございません。
1. パワーハラスメント(パワハラ)の主な裁判例
パワハラの裁判では、精神的な苦痛だけでなく、被害者が精神疾患(うつ病など)を発症したり、最悪の場合、自殺に至ったりした場合に、会社(事業主)と加害者個人の責任が厳しく問われます。
| 事例のテーマ | 判例の概要とポイント | 慰謝料の傾向 |
| 【自殺事案・高額賠償】 | 上司からの日常的な暴行・暴言・退職勧奨を継続的に受けた従業員が自殺に至った事案。裁判所は、パワハラ行為と自殺との間に因果関係を認め、会社と加害者役員に対し、合計数千万円(例:2,000万円~2,800万円など)の高額な賠償を命じました。企業は安全配慮義務違反(労働契約法第5条)が問われます。 | 非常に高額 (2,000万円超) |
| 【精神疾患発症】 | 上司からの長年の暴言や長時間にわたる執拗な叱責により、被害者がうつ病や適応障害を発症し、休職に追い込まれた事案。行為の悪質性や継続性、被害の程度に応じて慰謝料が算定されます。 | 高額になる傾向 (100万~500万円程度) |
| 【人間関係の切り離し/過小な要求】 | 従業員を**「追い出し部屋」**に隔離したり、能力に見合わない単純作業のみを命じたり、仕事を与えなかったりする行為が違法なパワハラと認定され、会社に賠償が命じられた事案。 | 事案による (数十万円~) |
2. セクシュアルハラスメント(セクハラ)の主な裁判例
セクハラの場合、男女雇用機会均等法に基づき、企業にはハラスメントを防止し、発生した場合には適切に対応する義務(防止措置義務)が課されており、この義務違反が問われることが大きな特徴です。
あくまでも判例です。同様の判例になるということではございません。
| 事例のテーマ | 判例の概要とポイント | 賠償責任の傾向 |
| 【初期のセクハラ認定】 | 上司が部下に対し、性的悪評を流すなどの行為について、加害者と会社に連帯して賠償を命じました。セクハラによる損害賠償を認めた初期の重要な判例として知られています(福岡地裁 平成4年4月16日判決など)。 | 会社にも責任が認定 |
| 【企業の対応の不備】 | セクハラの被害申告があったにもかかわらず、会社が十分な調査や適切な措置を怠った(または不適切な措置を取った)結果、被害者が退職を余儀なくされたり、精神的苦痛を増大させたりした事案。企業の安全配慮義務違反や職場環境整備義務違反が認められ、賠償責任が課されます。 | 企業責任が重い |
| 【SNS/業務外のツール】 | 上司がSNSやLINEなどの業務外のツールを利用して部下に執拗に食事や交際を迫ったり、性的なメッセージを送信したりする行為について、職場環境を害するセクハラと認定し、会社にも責任を認めた事例があります。 | 場所・ツールを問わず認定 |
| 【加害者への懲戒処分の有効性】 | セクハラ行為を行った管理職に対する出勤停止や降格といった懲戒処分について、その行為の反復性や企業秩序への影響から、処分が有効であると認められた事例(最高裁 平成27年2月26日判決など)。 | 厳格な処分も肯定 |
裁判例からわかる共通のポイント
- 企業(事業主)の責任(使用者責任・安全配慮義務違反) ハラスメント行為の多くは、加害者個人だけでなく、会社も連帯して損害賠償責任を負うと判断されます。特に、会社がハラスメント防止の措置を講じていなかったり、被害の申告に対して不適切な対応をしたりした場合に、会社の責任は重くなります。
- 被害の重大性による賠償額の変動 慰謝料の額は、ハラスメントの悪質性、継続性、期間、そして被害者の精神的・身体的な被害の程度(精神疾患の発症、休職、退職の有無など)によって大きく変動します。
- 証拠の重要性 ハラスメントの事実認定には、被害者が記録したメモ、録音、メール、診断書などの証拠が極めて重要となります。
あくまでも判例です。同様の判例になるということではございません。




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